ロシアのウクライナ侵攻

 

 ロシアがウクライナに侵攻して、こんな時代が来るとは思わなかった時代になった。平凡な市民は大したことはできないが、幸いエスペランチストにはエスペラントがある。世界の声を集めて、それを広めたりして、何とか私は精神の平衡を保っている。

 

花粉症、コロナに加えウクライナ、心身ともにむしばまれてゆく

Fojnokataro, kronviruso kaj la milito malsanigas homojn mense kaj korpe.

人は病み、人は死ぬのが定めなり、兵火で加速する必要もなし

Homoj devas morti iam, kial estas necese hastigi homojn al frua morto?

ニュース見るたびに心の奥底ではらはらと何かが剥落してゆく

Ĉiun fojon kiam mi vidas la novaĵon, funde de mia koro io deŝiriĝas malseke  

「戦争やめろ!」怒りを込めてはがき書く嘘八百のロシア大使へ

“Ĉesigu la militon!” kun kolerego mi skribis karton al la ruza rusa ambasado

エスペラント、平和の言葉を学ぶゆえ心の均衡保たれている 

Esperanton, lingvon por paco mi lernas, tial mi povas teni min ekvilibra

 

ロシアのウクライナ侵略とエスペラント

堀泰雄(前橋支部)

 

ロシアの囲碁仲間

323日の「しんぶん赤旗」に、戦争反対を訴えたために「お前はロシアを裏切った。娘を殺す」と脅迫されてトルコのイスタンブールに避難せざるを得なくなったモスクワの囲碁教師の話が載りました。その後彼は、同様にロシアから逃れたいロシア人の支援活動をしています。

私は、世界エスペラント囲碁連盟の会長をしています。またその機関誌の編集長でもあるので、この記事に関心を持ち、エスペラントに翻訳をし、それを4月号の機関誌に載せ、世界のエスペラント囲碁愛好家50人に発送しました。するとロシアの囲碁愛好家から411日に次の返事が来ました。

 

こんにちは、堀さん!「Go-amiko」(「囲碁の友」)の新しい号、特にロシアのプロ棋士に関する記事をありがとうございました。

ここロシアではひどい事が起こっています。戦争を支持しない普通の人々がロシアにまだいることを世界に知らせてください。この愚かな戦争のせいで、ロシアの人々も長く苦しむでしょう。私は他の国の人々が、すべてのロシア人を憎んだり非難したりしないことを本当に望んでいます。私たちも、(今は)殺されていなくても、犠牲者です。ロシアのインターネットが機能し続け、私たちが通信できる機会が続くことを願っています。セキュリティ上の理由から、新しい暗号化されたメールボックスからあなたに手紙を書いています。

多くのロシア人は、国の宣伝が巧妙なので、本当にプーチンを信じています。ロシアのエスペランティスト(最も平和な人々でなければならない!)でさえ、2つのグループに分けられました。政府の行動を支持する人もいれば、反対する人もいます。普段あまり政治に興味がなく、社会活動にも参加していない一般の人々は、メディアで国の見解だけを見ています。過去10年間で、独立したメディアは抑圧されてきました、そしてその圧力はより強くなりました。2021年は、ロシアの言論の自由にとって最悪の年でした。いくつかの報道機関は「外国の代理人」と非難され正常に機能することができず、いくつかは閉鎖され、いくつかは現在海外から活動していますが、報道はブロックされ、あるメディアは戦争についての報道をやめました。そのため、人々は政府のプロパガンダ以外のことを知るためには、特別に苦労して真実を探さなければなりません。両方の視点を知っていて、意識的に「政府メディアを」を選んでいる人も少ないですがいます(私には彼らが全く理解できません)。多くのロシア人は「アメリカの危険」と「NATOの危険」を信じており、ロシアがこの「作戦」を開始しなければ、すぐに攻撃されると信じています。
 しかし、ロシアにはすべてを理解し、戦争に反対している人もいます。しかし、これらの人々は隔離されており、平和的な抗議によって何かが変わる可能性があるとは考えられません。警察は、路上で戦争反対と書いた紙を持った人だけでなく、白紙を見せただけの人々もすぐに逮捕し罰金を科します。あなたが記事を翻訳したそのロシアの囲碁の教師Pavelさんのように、私は私の父とうまくやっていくのに苦労しています。彼は「国家」の宣伝を支持しているので、私たちはよく喧嘩をします。私は彼に、政府のプロパガンダを盲目的に信じるのはよくないと徐々に説得しようとしています。

私もまた、ロシアから引っ越して他の国に住む可能性についても考えることがあります。しかし、今は家族や職業上の理由でそれを行うことはできません。私は、インターネットを介してリモートで作業し、どこにでも住むことができる新しい職業を取得する必要性をすでに感じています。今、私は電話アプリ作成技術を学んでいて、将来プログラマーになることが出来そうです。

私は2023年に大本教団(注:エスぺラントを布教に採用している京都府亀岡市にある教団)の記念式典に参加するために日本に旅行したかったのですが、その夢は実現しそうもありません。数年かかるかもしれませんが、状況が安定し、またどこへでも自由に旅行できるようになるのを願っています。今、私たちは一刻も早く平和が来るよう、真実の情報を広め、互いに助け合うことしかできません。 希望は他人が奪うことができない私たちの唯一の財産です。

元気で、平和と安心の中で囲碁を楽しんでください。あなたのAより(注:希望により匿名で)。

 

私は、この最後の一文を読んで涙が止まりませんでした。このAさんとは、何回か出会っています。最初に出会ったベトナムでは、彼は20代の若者でした。今は30代の半ばは過ぎているのではないかと思います。アルゼンチンでの世界エスペラント大会では、碁盤を囲んで対局もしました。またしばしば、ロシアの囲碁界の状況や、自分が参加した囲碁大会の報告も送ってきました。囲碁の機関誌を世界に送っていますが、出会って対局したのはこの人くらいしかありません。私は、今は毎週のように囲碁を打つ機会を持てていますが、彼にはもうそんな機会はないでしょう。戦時になれば、後方にいたとしても、囲碁のような不要不急の娯楽を楽しむ機会もないでしょう。それだけに、彼のメールの最後の「元気で、平和と安心の中で囲碁を楽しんでください」という言葉には、戦争の愚かさ、残酷さが響いてきて、涙がどっと湧いてきました。また「希望は他人が奪うことができない私たちの唯一の財産です」という言葉にも、深い悲しみを感じました。

Aさん、気を付けてね。また囲碁を楽しめる日を期待しましょう」と、返事をしましたが、上のメールが当局の目に留まるのを恐れて、それはすべて削除し、短い文だけを送りました。

 

エスペランチストも分断されている

Aさんは、「エスペランティストは最も平和な人々でなければならない!」と書いています。エスペラントを作ったザメンホフは、戦争が絶えない原因の一つに、言葉が通じないことがあると考え、誰にでもやさしく使える国際共通語を考え出しました。エスペラントは、「希望する人」という意味です。希望するもの、それは世界平和であり諸国民の間の友情です。ですから、エスペラントを学び始める圧倒的多数の人は、この思想に共感する人です。しかし、この戦争は、そんなエスペランチストの中にも分断を生み出しました。

世界エスペラント協会、また日本エスペラント協会は、戦争反対の声明を出しました。しかしロシアエスペラント協会は出しません。戦争開始からしばらくして、ロシアエスペラント協会の元役員4人が、戦争反対の声明を出しましたが、それを報道したエスペラントのホームページでは、その4人に危険が迫ると考え名前をすぐ削除しました。多分この声明は、もうロシアでは見ることが出来ないでしょう。これに反応してか、現在のロシアエスペラント協会会長は、「個人的にはこの『特別作戦』に賛成だ」と書いたうえで「ロシアのエスペラント界には、賛成者も反対者もいるから、協会として統一的な声明は出せない。現状では何もしないのが最上の策だ。もし反対声明を出したら、私は会長を辞め、声明撤回の運動をする」とも書いています。つまり、プーチンのこの戦争で、エスペラントの理念も活動も圧殺されたということになるのではないでしょうか。

私は「エスペラント大相撲」を主宰しています。これは日本の大相撲の期間に合わせて、世界中で一斉にエスペラントの本を読もうという催しで、2009年に始まり、この5月のエスペラント大相撲で第75回目になりました。当初はもちろん10人程度の参加でしたが、今では平均すると35か国から350人が参加する史上最大の読書運動に発展しています。ロシアからも20人ほどが参加しています。これらのロシア人との関係も微妙です。

あるロシア人参加者からは、戦争を正当化するYouTubeの映像が送られてきました。また別の人からは、「この戦争の評価は、今の私には何とも言えないし、後世の歴史家が決めるのでは」と、微妙な表現で、たぶん「賛成」なのではないかと思えるメールが来ました。その他の人からは、「相撲参加」の申し込みは来ますが、この戦争についてのコメントはありませんし、こっちからのメールでその人に迷惑がかかる心配もあるので、お互いに、触らないようにしています。エスペランチスト同士が、こんな気分になるのは、本当に嫌なものです。

 

ウクライナから相撲に参加

3月のエスペラント相撲は、313日から始まりました。私は普通、その2週間くらい前から、相撲参加への呼びかけを、これまでの参加者やその他へ発信します。すると3月はじめ、ウクライナのタチアナさんから「オデーサの空は平和です。相撲に参加します」という短いメールが来ました。期間中に読む本は「ポストニコフ大尉の10日間」という小説で、著者はミカエル・ブロンシュテインという人です。

ちょっと横道にそれますが、この著者は、ウクライナ出身で今はロシアに住んでいます。2年前に、彼は日本エスペラント大会に招待され講演を行いましたが、大会後各地を巡回講演している途中で、息子の急死を知らされ、大急ぎで帰国しました。ある人は「ロシア大使館の職員が聴きに来ていた。講演の中で反ロシア的なことを話したので、その見返しに息子が殺されたのではないか」と言い、ある人は「そんなのはガセネタだ」と嘲笑したとのことで、真相は分かりません。しかし、現在のウクライナ侵略を考えると、「謀殺説」もあながち無視もできないことのように思います。彼はウクライナ人ですから、もちろんロシアのウクライナ侵略には反対だと思いますが、ロシアに住んでいるという微妙な立場なので、作家としても、創作活動にも注意しないと、危険な目に遭いそうです。

さて、タチアナさんの「相撲参加」のメールには、まさか侵略を受けている国から参加があるとは思ってもいなかったので、びっくりもし、同時に感動で体が震えました。このことを、相撲参加者に流しましたが、皆同様に感動したようで、多くの返信がありました。オデーサは、黒海の沿岸の町で、「戦艦ポチョムキン」という映画の中で、広い石の階段を乳母車が下りてくる場面で有名な町です。今日426日現在、オデーサから東の地域は戦乱の真っただ中にありますが、オデーサには時たま砲弾が飛んでくるだけで、比較的平穏です。しかし、ロシアは、黒海沿岸から更にモルドバまでを支配し、ウクライナの黒海への入り口を封鎖してしまうという意図を持っていると言われているので。今後の戦況ではタチアナさんも避難を余儀なくされるかもしれません。

タチアナさんの息子は、コンピュータ・デザイナーということですが、すでにその頃ウクライナ軍に参加し、どこかで戦い始めていました。3月場所は、タチアナさんは15日間全勝で終了しましたが、その時までは息子さんは「元気だ」ということでした。その後、もしマリウポリにでも行っていれば、製鉄所の地下で籠城生活、またはウクライナ軍の戦死者も増えているので、何かあってもおかしくはありません。相撲仲間としては、彼女と息子に何もなければよいが、と願うばかりです。

 

世界の声を集める

 エスペラントは、モノや情報を集めるのにとても便利です。20年ほど前には、世界の絵葉書を、10年ほど前には「世界の平和メッセージ」を、一昨年からは「コロナ情勢」を集めては、様々に活用してきました。今回も、「ウクライナ侵略世界の声」を集めはじめました。すべてをエスペラント―日本語の対訳にし、すでにA4判で100ページにもなっています。これらは、週に一度ほど、日本人の知人500人に、世界では、大相撲参加者350人に送っています。それへの返信が来るとまた付け加ええて行きます。この活動は「エスペラントはすごい力を持っている」という印象を受け取った人に与えています。エスペラントも単に、自分で本を読んで楽しんでいるだけでなく、こういう社会的な運動に使えば、もっとひろがるのになあ、としみじみ思うこの頃です。

 そんな活動を「赤旗」が認めてくれて、429日に大きな記事になり、それがまた、反響を呼び、皆さんに元気を与えています。

 「世界の声」を読みたい人は群馬エスペラント会のホームページ

 https://esperanto-gunma.jimdofree.com

Voĉoj pri la milito el la mondoを見てください。

 

 

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